はじめに

2026年9月に入り、原油価格の上昇、物価上昇、金利上昇という三つの動きが同時に進んでいます。高配当株を持つ人にとって、この三つは別々の話ではありません。原油が物価を動かし、物価が金利を動かし、金利が株式の相対的な位置づけを変えるためです。

この記事では、その連鎖をいまの公的統計で確認したうえで、高配当株に追い風と逆風が同時にかかる構造と、企業開示で確認できる点を整理します。特定の銘柄や売買の判断を示すものではありません。

原油・物価・金利の現在地

事実:主な数字は次のとおりです。

項目 直近の値 出所・時点
WTI原油先物 1バレル101.81ドル 2026年9月17日4時23分時点(日本経済新聞の市況ページ)
国内企業物価指数 前年比+7.6% 2026年8月速報(日本銀行、9月11日公表)
全国消費者物価指数(コア) 前年比+1.8% 2026年7月分(総務省、8月21日公表)
日本10年国債利回り 2.998% 2026年9月16日基準の確定値(財務省)
米政策金利(FF金利誘導目標) 3.75〜4.00% 2026年9月16日のFOMCで引き上げ

原油高の背景には中東情勢があります。ホルムズ海峡をめぐる緊張やサウジアラビアの供給設備の停止、リビアの一部油田の操業停止などが報じられており、需要増ではなく供給側の不安が価格を押し上げている形です。海上輸送路の構造は紅海とホルムズ海峡の要衝で整理しています。

米国では9月16日のFOMCが政策金利を0.25ポイント引き上げ、3.75〜4.00%としました。2023年7月以来、約3年ぶりの利上げで、インフレの高止まりを踏まえた対応と報じられています。米10年債利回りは9月14日に一時5.014%と2023年10月以来の高い水準をつけたと伝えられています。FRBの発表で見る場所は米国の政策金利と世界のお金の流れにまとめています。

見方:原油、物価、金利のどれか一つを単独で見ると、局面の性格を読み違えます。今回は「景気が強いから金利が上がる」のではなく、供給側の制約による物価上昇に中央銀行が対応している形である点が、株式への影響を考えるうえでの前提になります。

追記:日本銀行は9月18日に1.25%へ利上げしました

事実:日本銀行が9月18日に公表した「金融市場調節方針の変更について」によると、同日の金融政策決定会合で、無担保コールレート(オーバーナイト物)を1.25%程度で推移するよう促す方針を賛成7・反対2で決定しました。補完当座預金制度の適用利率は1.25%、基準貸付利率は1.5%となります。新しい方針の適用は翌営業日の9月24日からです。2026年6月会合以来3カ月ぶりの利上げで、1995年以来31年ぶりの水準と報じられています。植田和男総裁は記者会見で「政策の局面が変化した」との認識を示したと伝えられています。

同じ公表文は、物価について「原油高や為替円安に加え、AI関連需要拡大の影響から、国内企業物価は前年比で高い伸びが続いている」とし、消費者物価は「企業間取引における価格上昇圧力が消費者段階にも波及し始めている」と記しています。そのうえで、基調的な上昇率が2%の物価安定の目標を超えて上振れるリスクに言及しています。

同じ18日の朝に公表された8月の全国消費者物価指数は、生鮮食品を除く総合(コア)で前年比+1.7%と、7月の+1.8%から伸びが縮みました。生鮮食品およびエネルギーを除く総合(コアコア)は+1.9%で横ばいでした。コアの鈍化にはエネルギー価格の下押しが効いており、後述するガソリンの定額引下げ措置の拡大が反映されたとみられます。

決定当日の市場の反応は次のとおりです。

項目 水準 前営業日との比較
日経平均株価(9月18日終値) 65,018.95円 +882.70円(+1.38%)
日本10年国債利回り(9月18日17時58分) 2.985% −0.005%
ドル円(9月19日5時50分) 156円86〜88銭 +1.18円の円安
WTI原油先物(9月18日16時59分) 1バレル99.53ドル −2.38ドル(−2.33%)

見方:利上げそのものは事前に広く織り込まれていました。反対票が2票入ったことで追加利上げのペースが速まるとの見方が後退し、円は売られたと報じられています。利上げの当日に円安が進み、長期金利はほぼ動かず、株価は上昇するという組み合わせは、政策金利の方向と為替・株式の反応が必ずしも一致しないことを示しています。

もう一点、消費者物価の伸びが縮んだその日に日本銀行が利上げを決めた、という順序に注目できます。コアCPIの鈍化にはガソリン補助の拡大という政策要因が含まれており、その下押しを除いた物価の基調は別に評価されたことになります。日本銀行の公表文が「企業間取引における価格上昇圧力が消費者段階にも波及し始めている」と記したことは、以下で見る「企業物価と消費者物価の段差」が縮む方向で読まれていることを意味します。段差は、政策による抑制分も含めて読む必要があります。

なお原油は同じ18日に1バレル100ドルを割り込み、本記事が前提とした水準からは低下しました。原油が戻れば補助の支給単価も縮小し、抑えられていた分が消費者物価に出てくる可能性があります。

企業物価7.6%と消費者物価1.8%の段差

事実:国内企業物価指数は2026年8月速報で前年比+7.6%となり、3カ月続けて7%台となりました。日本銀行の公表資料によると、調査対象515品目のうち446品目が上昇し、石油・石炭製品や非鉄金属の上昇が目立っています。

一方、家計が直面する全国消費者物価指数(生鮮食品を除く総合)は2026年7月分で前年比+1.8%でした。6月の+1.6%から伸びは拡大しましたが、日本銀行が目標とする2%を7カ月続けて下回っています。9月18日に公表された8月分は+1.7%で、伸びはふたたび縮みました。

家計への波及には時間差があるほか、政策による抑制も働いています。資源エネルギー庁の公表資料によると、9月14日のガソリン全国平均価格は169.9円(前週比−0.1円)で、横ばい圏にとどまっています。ただしこれは定額引下げ措置による支給が効いた後の価格です。支給単価は9月17日から30日にかけて1リットルあたり51.0円で、前週の36.0円から15.0円拡大しました。同資料は、支給単価が「今週の価格169.9円+前週の支給額36.0円+原油価格の変動分15.1円-基準価格170.0円」という算式で決まると説明しています。

電気料金については、燃料費調整制度の仕組み上、燃料価格の変動が料金へ反映されるまでおおむね3カ月程度の時間差が生じます。

見方:店頭価格が落ち着いて見えても、原油高そのものが収まったわけではありません。同資料では、支給がない場合の価格は9月14日時点で205.9円と示されており、店頭の169.9円との差が政策による抑制分にあたります。支給単価が1週間で15円拡大したことは、原油高の圧力がそれだけ強まっていることを示します。企業物価と消費者物価の差も、まだ販売価格へ転嫁されていないコスト上昇が企業側に残っていることを示唆します。この段差は二通りに解消し得ます。企業が値上げできれば消費者物価が後から上がり、値上げできなければ企業の利益が圧迫されます。どちらに進むかは業種や企業ごとに異なり、高配当株を見るうえでの分岐点になります。消費者物価の見方は消費者物価指数(CPI)の読み方で解説しています。

高配当株に同時にかかる二つの力

事実:金利上昇局面では、資源・エネルギーや銀行など、業績が資源価格や金利と結びつく業種へ資金が向かいやすいと観察されています。9月の東京市場でも、原油高を受けて鉱業、石油・石炭製品、電気・ガスなどの業種別指数に動きが出たほか、商社株にも資金が向かったと報じられています。

同時に、金利上昇は株式の相対的な位置づけを下げる方向にも働きます。日本の10年国債が2.998%で運用できる状況では、配当利回り4%前後の株式に求められる上乗せ幅(リスクプレミアム)の見え方が変わるためです。

見方:高配当株には、この二つの力が同時にかかっています。一方が他方を打ち消すのではなく、業種によってどちらが優勢かが分かれます。「高配当株」という一つの括りで上がる下がるを論じると、この分岐が見えなくなります。物色の移り変わりの捉え方はセクターローテーションと高配当株で扱っています。

業種によって効き方は逆になる

見方:三つの要因が業種へどう働きやすいかを整理すると、次のようになります。個別企業の業績を保証するものではなく、一般的に想定される方向の整理です。

業種 原油高 インフレ 金利上昇
石油・鉱業 追い風 追い風 強弱混在
総合商社 追い風 追い風 強弱混在
銀行・保険 逆風 追い風 追い風
電力・ガス 逆風 強弱混在 逆風
陸運・海運・空運 逆風 強弱混在 逆風
J-REIT・不動産 強弱混在 追い風 逆風
食品・日用品 逆風 強弱混在 強弱混在

事実:J-REITは借入によって不動産を取得し賃料を分配する仕組みであるため、金利上昇は調達コストの増加要因となります。加えて、国債利回りが上がると分配金利回りの相対的な位置づけも変わります。東証REIT指数は9月4日時点で1,769.73ポイントで、年初来では下落基調が続いていると報じられています。

見方:電力・ガスは燃料費調整によって最終的にコストを料金へ反映できますが、反映までの時間差の間は利益が圧迫されます。設備投資のための借入が大きい業種でもあるため、原油高と金利上昇の双方が同じ方向に効きます。利回りの高さだけで選ぶと、この二重の逆風を見落とすことがあります。

利回りは税と物価を引いて比べる

事実:配当や利子には原則20.315%が課税されます(NISA口座は非課税)。さらに物価上昇分を差し引くと、手元に残る実質的な利回りは表面の数字より小さくなります。配当利回り4.0%の株式と、日本10年国債2.998%を同じ物差しで並べると次のようになります。

段階 配当利回り4.0%の株式 日本10年国債(2.998%)
表面の利回り 4.00% 3.00%
税引き後(20.315%) 3.19% 2.39%
物価1.8%を差し引いた実質 1.39% 0.59%
物価3.0%を差し引いた実質 0.19% ▲0.41%

配当利回りは説明のための仮の数値です。国債利回りは9月16日基準の2.998%を3.00%として計算しています。

見方:表面では1.00ポイントあった差が、税と物価を差し引くと0.80ポイントまで縮みます。差は残りますが、その差を得るために株式では価格変動を引き受けることになります。また物価上昇率が3%まで高まる想定では、国債の実質利回りはマイナスになり、配当利回り4%でも残るのは0.19%です。名目の利回りだけで比較すると、インフレ局面では判断を誤りやすくなります。

企業開示で確認したい4点

見方:この局面で企業側の耐性を見るときは、決算資料で次の4点を確認すると輪郭がつかめます。

確認する点 どこを見るか 何が分かるか
価格転嫁の状況 売上総利益率(粗利率)の推移 コスト上昇を販売価格へ乗せられているか
配当の原資 営業キャッシュフローと配当総額 本業の稼ぎの範囲で配当を払えているか
負債と借換え 有利子負債、自己資本比率、社債の償還予定 金利上昇が利払い負担へどう効くか
配当方針 中期経営計画、累進配当やDOEの記載 利益が振れたときに配当が安定しやすいか

見方:特に資源価格の上昇で一時的に利益が拡大している企業では、その利益水準が継続する前提になっていないかの確認が重要です。配当方針の考え方は高配当株投資で見るべき増配・DOE・自社株買いの基本で整理しています。

個人投資家が確認したい5つの点

  1. 決定と反応を分けて見る:FOMCは9月16日、日本銀行は9月18日に利上げを決めました。ただし日本では利上げ当日に円安が進み、長期金利はほぼ動いていません。政策金利の方向だけから為替や株価の反応を決めつけないことが大切です
  2. 企業物価と消費者物価を分けて見る:+7.6%と+1.7%の段差は、今後の値上げ余地とコスト圧迫の両方を含みます。消費者物価には補助金による下押しも入っています
  3. 利回りは税と物価を引いてから比べる:表面利回りの差は、実質ベースでは縮みます
  4. 業種の偏りを点検する:金利に弱い業種へ寄っていないか、資源関連だけで配当が構成されていないかを確認します
  5. 原油高の理由を確認する:供給制約による上昇は、状況が変われば戻る可能性があります。需要増による上昇とは性格が異なります

まとめ

2026年9月は、原油高、企業物価の上昇、金利上昇が同時に進む局面です。国内企業物価は8月速報で前年比+7.6%、全国コアCPIは8月分で+1.7%、日本の10年国債利回りは9月18日時点で2.985%となっています。米国では9月16日のFOMCが約3年ぶりの利上げに踏み切り、日本銀行も9月18日に政策金利を1.25%へ引き上げました。

高配当株には、資源価格や金利で収益が伸びる追い風と、国債との比較で相対的な位置づけが下がる逆風が同時にかかります。どちらが優勢かは業種によって逆になるため、「高配当株」という括りのままでは判断材料になりません。日本銀行の利上げ当日には、円安・株高・長期金利ほぼ横ばいという反応になりました。政策金利が上がったからといって、為替や株式が同じ方向に動くとは限りません。日銀の政策をめぐる論点は日銀で強まる利上げ加速論、利上げが返済額に届くまでの時間差は住宅ローンと企業借入の時間差で扱っています。

本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、特定銘柄や金融商品の売買を推奨するものではありません。掲載の数値は執筆時点で確認したものです。投資判断は、ご自身の状況やリスク許容度を踏まえ、必要に応じて専門家にも相談しながらご自身の責任で行ってください。詳しくは免責事項もご確認ください。